であいもん20巻 感想・考察|和と佳乃子の恋が実る春、京都の四季と和菓子が紡ぐ幸福の物語

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ついに結ばれた二人と、訪れる“春”――和菓子と京都が見守る、心温まる愛と成長の一冊

であいもん20

『であいもん(20)』は、ついに和と佳乃子の関係が実った節目の巻。

長い時間をかけて育まれた想いが形となり、二人は新たな“日常”へと歩み始めます。

親への挨拶や仕事の両立など現実的な課題に直面しながらも、節分・バレンタイン・茶道部三送会といった京都の行事が、物語に彩りと温もりを添えます。

倭世の過去のなれそめなど、世代を超えて受け継がれる“想い”の描写も見どころ。

和菓子とともに描かれる、静かな幸福と人のつながりを感じる珠玉の一冊です。

(角川コミックス・エース)

1. あらすじと巻の位置づけ

『であいもん(20)』は、シリーズの節目にふさわしい「春の訪れ」をテーマにした穏やかな一冊です。
ついに実った和と佳乃子の関係。長年の想いが通じた二人は、恋人同士として新たな一歩を踏み出します。
しかし、物語は「幸せになって終わり」ではありません。互いの親への挨拶、仕事との両立、そして周囲との関係――やるべきことは山積みです。

今巻では、節分やバレンタインデー、茶道部の三送会など、京都の四季行事を通して描かれる“日常の幸せ”が中心。
また、倭世(かずよ)の過去やなれそめなど、これまであまり語られなかった背景も丁寧に掘り下げられています。
シリーズ全体で見ると、恋愛としてのクライマックスを経て「穏やかな成熟」に入る転換点。
恋と人生、仕事と人間関係の調和をテーマにした、心温まる「和(なごみ)」の物語です。


2. キャラクターとテーマ分析

この20巻の中心は、もちろん 和と佳乃子の関係の深化 です。
長い時間をかけて築かれてきた信頼が、ようやく恋愛という形に実を結びました。
だが、それはゴールではなく、新しい「日常の始まり」。
親への挨拶や、仕事のバランス、互いの価値観の違いなど、恋人としてのリアルな課題が描かれています。

特に印象的なのは、二人が互いの未来を考える姿勢です。
であいもんシリーズが一貫して大切にしているのは、“一緒にいる”ことの意味
華やかな恋愛ではなく、互いの歩幅を合わせ、時には立ち止まりながら進む関係性こそが、浅野りん先生の描く「大人の恋」の魅力です。

また、倭世の過去のなれそめ回では、今の世代と対になるような“人生の先輩としての愛の形”が示されます。
世代を超えて受け継がれる「想い」と「和の心」。
恋愛漫画でありながら、家族愛・友情・伝統への敬意が交錯する、深みのあるテーマ構成となっています。


3. 漫画的描写・演出の見どころ

浅野りん先生の繊細な作画は、20巻でも変わらぬ温かさと情感を放っています。
特に京都の冬から春への移ろい――節分の賑わい、梅の花の香り、バレンタインの甘い空気――が美しい色調で表現され、ページをめくるたびに季節を感じられる仕上がりです。

日常の一コマに潜む感情表現も見逃せません。
和と佳乃子が視線を交わす一瞬、手を伸ばしかけて引っ込める仕草、そして和菓子を通じて伝え合う気持ち。
派手な演出こそ少ないものの、静かな間(ま)で心情を語る描き方が見事です。

また、茶道部の三送会エピソードでは、作中全体を包む“おもてなしの心”が凝縮されています。
後輩たちへの感謝、先輩との別れ、そして未来へつながる伝統の引き継ぎ――。
この作品は単なる恋愛漫画ではなく、「人と人とのつながりを描いた京都人情譚」であることを再確認させてくれます。


4. 京都と和菓子文化の描写

『であいもん』は単なるラブストーリーではなく、京都文化を通して人と人の絆を描く“和の物語” です。
20巻では、節分・バレンタイン・三送会といった行事を背景に、四季と和菓子が物語を彩ります。

和菓子屋「緑松」で登場するお菓子は、どれも季節に合わせて職人の想いが込められています。
例えば、節分の時期に登場する「鬼打ち豆」を模した菓子や、春を告げる「花びら餅」。
それぞれの和菓子には「邪を払う」「春を迎える」という意味があり、登場人物たちの心情と見事に重なっています。

浅野りん先生は、味や香りまでも想像できるような描写力で、“京都の時間の流れ” を巧みに再現しています。
茶道部の三送会では、和菓子を通して感謝を伝える文化が描かれ、
「言葉ではなく、もてなしの心で想いを伝える」――そんな日本的な美徳が表現されています。

京都の街並みも、静謐で柔らかい筆致で描かれています。
町屋の木格子、細い路地、冬の空気感、春風に乗る桜の花びら――。
それらが和と佳乃子の穏やかな関係を包み込み、“日常の中にある幸福” を視覚的にも感じさせます。


5. 物語のメッセージ ― 「幸せは作るもの」

20巻の核心メッセージは、「幸せは訪れるものではなく、自分たちで作り出すもの」です。
和と佳乃子は恋が実ったことで終わりではなく、その先にある“生活”を描かれます。
お互いを尊重しながらも、親や仲間との関係をどう築くか――。それは、誰にとっても共通する「現実的な幸せ」のテーマです。

節分やバレンタインなど、恋愛行事を通じて描かれるのは派手なロマンスではなく、
「一緒に過ごす時間そのものが愛になる」 という温かな哲学。
日常のさりげない一言、和菓子を贈る仕草、相手の好みに合わせた心配り。
それらが積み重なって“ふたりの春”が訪れるのです。

さらに、倭世の過去の恋物語がこのテーマを補完します。
かつての彼女も、失敗や後悔を経て、今の穏やかさを手に入れた。
その姿が、和と佳乃子の未来への鏡のように映し出される構成は、非常に詩的です。

浅野先生の筆致は常に柔らかく、優しさと現実の狭間を丁寧に描いています。
「誰かのために心を込めること」――そのシンプルな行為が、20巻全体を通して一貫するメッセージです。


6. 総まとめと次巻への展望

『であいもん(20)』は、シリーズ全体にとっても重要な節目の巻です。
和と佳乃子の関係が“実った”ことで、物語は恋の導入期から「成熟期」へと進みます。
この先は、二人がどのように家庭や仕事、人間関係と向き合っていくのか――。
和菓子を媒介に描かれる“人生の甘味と苦味”が、より深く描かれていくことが期待されます。

また、倭世の過去エピソードを挟むことで、今後の展開に「世代の継承」という新たなテーマも加わりました。
和菓子職人としての技術や精神だけでなく、「人の想い」をどう受け継いでいくか。
これこそが、『であいもん』という作品が10年以上にわたって愛され続ける理由です。

次巻では、親への挨拶や店の新展開など、生活のリアルな課題が描かれる可能性があります。
静かな日常の中で生まれる“人のつながり”を、浅野りん先生がどう表現するのか――。
ファンとしては、またひとつの“春”を見届けるのが待ち遠しくなる終わり方でした。

(角川コミックス・エース)

 

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